アンコールはリビングで
火曜の夜、私は自分から湊にご飯をねだった。
明日の夜も作ってほしい、と。

一緒に暮らしていれば、お願いごとなんて数えきれないほどしてきた。

帰りにコンビニへ寄ってきてとか、届かない棚のものを取ってとか。

でも、用事でもなんでもなく、ただ甘えたくて口にしたお願いは、あれがほぼ初めてだったかもしれない。

私が意を決して伝えたワガママに、湊は耳の先まで赤くして、たまらないというようにその場にしゃがみ込んでしまっていたのだ。

そして、その翌日の水曜日。

仕事を終えて帰宅した私がリビングのドアを開けると、キッチンのほうからご機嫌な鼻歌が聞こえてきた。

「おう、おかえり。もうすぐできっから、座ってろ」

コンロの前に立ち、フライパンをリズミカルに振りながら、そう言った彼の背中は、どこからどう見ても、尻尾をちぎれんばかりに振っている大型犬のように浮かれていた。

卵がふわふわのオムライスは、まるでお店みたいに綺麗なラグビーボール型をしていて、味も本当に美味しかった。

けれど私が今も鮮明に覚えているのは、その味よりも、あのやたらとご機嫌な湊の姿のほうだ。

私はただ、食べたいものを言っただけなのに。

どうして彼は、あんなにも嬉しそうだったんだろう。

あの背中を、もう一度見たい、と私は密かに思ってしまったのだ。

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