アンコールはリビングで
「……ん」

湊は面倒がる素振りなど一切見せず。

それどころか、マスク越しでも分かるくらい目元を緩めて、私からあっさりとスマホを受け取った。

「貸してみ。……あー、なるほどね。この先の信号を右に曲がった路地裏か」

湊は私のスマホの画面で地図をパッと確認すると、それを私のポシェットへとそっと戻した。

そして、そのままごく自然な動作で、日傘を持っていないほうの私の手を取り、手のひらで包み込んだ。

私より随分と大きい手が、私の指の間にしっかりと絡められる。

「あっ……」

不意に手を繋がれ、私は思わず小さく息を呑んだ。

普段、私たちのマンションの近くを歩くときは、彼が顔の知られた有名人であることもあって、少しだけ距離を空けて歩くように気をつけている。

今日はマンションから離れた落ち着いた街でのデートとはいえ、本当にこんなに堂々と手を繋いでしまって大丈夫なのだろうか。

誰かに見られたり、パパラッチに狙われたりしないだろうかと、不安が頭をよぎる。

けれど、そんな私のわずかな逡巡を察したのか。

湊は私の手を引くようにして、繋いだ指先にきゅっと力を込めた。

「……ちゃんと、俺の隣歩けよ」

「……うん」

帽子とマスクで表情はよく見えない。

けれど、躊躇いなく繋がれた手は温かくて、私の小さな、ぎこちないワガママを、心から喜んでくれているようだった。

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