アンコールはリビングで
「……湊のそのケーキ、すごく美味しそう。……私にも、ひとくち、くれる?」

「ん、いいよ。食う?」

湊はフォークでケーキを小さく切り分けると、横のクリームを少しすくって乗せた。

いつもの彼なら、ここで迷わず私の口元へフォークを運んできたはずだ。

けれど今日の彼は、切り分けたケーキをフォークに乗せたまま、手元でピタリと動きを止めた。

そして、どこか試すような、私の次の言葉をじっと待っているような、意味ありげな視線を向けてきたのだ。

(……わざとだ)

心臓が、ドクンと大きく跳ねる。

顔が熱くなるのを感じながら、私は上目遣いで彼を見つめ返した。

「……あーん、して、ほしいな」

「……」

湊は、隠しきれないほどに口角をゆるゆると引き上げた。

私が言葉にするのを待っていたくせに、いざ言われると少しだけ照れくさそうに目を細めて。

それから、ケーキを乗せたフォークを、ゆっくりと私の口元へと差し出してきたのだ。

< 1,071 / 1,077 >

この作品をシェア

pagetop