アンコールはリビングで
4. 夕陽とツンデレ

何度かの休憩を挟み、撮影は順調(?)に進んだ。

時刻は夕方。いよいよ今日のクライマックス、山頂でのシーンだ。
本物の夕陽をバックにするため、一発勝負に近い緊張感が漂う。

「あー! 夕陽、綺麗ですね! 自分の足で登ってきたご褒美、最高じゃないですか!?」

舞花の言葉に、ヘトヘトになった怜司が顔を上げる。
目の前には、茜色に染まる空と山々。

「……君、普段からこんな風に過ごしてるのか?」

「そうですよ! たまにはこうやって、スマホも触らずに、アナログに過ごすのも悪くなかったでしょう?」

舞花の笑顔に、怜司の冷徹な仮面が少しだけ剥がれ落ちる。

「……まあ、君が言うことも、分からなくはないな」

「……キミキミって……今日も一日中キミキミ言ってましたよね、佐伯さん。平安時代じゃないんですから! もう、私にはちゃんと名前があるんですよ? 『舞花』って覚えてました?」

舞花が頬を膨らませて抗議する。
怜司はバツが悪そうに視線を逸らし、咳払いをした。

「うむ……覚えては、いるが……」

「そうなら、そう呼んでください! 舞花って! キミ、はもう無しですよ?」

「……わかった。善処する。……ま、舞花くん」

照れくさそうに名前を呼ぶ怜司。
その横顔が夕陽に照らされ、不器用な優しさが滲み出る。

< 109 / 224 >

この作品をシェア

pagetop