アンコールはリビングで
4. ビスポークの記憶

CMに入り、ふっとリビングの空気が緩んだ。

私は無意識のうちに息を止めていたことに気づき、小さく呼気を漏らした。

「……ふぅ」

湊が私の膝から頭を上げ、半身を起こした。
そのままテーブルの炭酸水を手に取り、一口飲む。

そして、今度は寝転がるのではなく、私の隣に並んで座り直した。
ソファのクッションが沈み、彼の体温が肩越しに伝わってくる。

「……ねぇ、湊」

「ん?」

炭酸水のボトルを弄びながら、彼がこちらを向く。

「怜司のこの感じ……たまに、出会った頃の湊を思い出すよ」

私の言葉に、湊の手が止まった。
彼はゆっくりと顔を上げ、怪訝そうな顔をした。

「……あ? なんでだよ。俺、あんなに格好つけてたか?」

心外だと言わんばかりの表情。

でも、私は知っている。
出会った頃の彼が、どれほど張り詰めた空気を纏っていたか。

「ううん、格好つけてるんじゃなくて。仕事に対して、すごく……『尖ってた』なって」

「……」

湊は何も言い返さず、背もたれに頭を預けて天井を仰いだ。

ドラマの中の怜司と同じように、彼もまた、若くして大きな責任を背負い、戦っていた。

誰にも弱みを見せないように。
誰にもその内側に踏み込ませないように。

(……尖ってた、か)

湊の中で、懐かしい感覚が蘇る。

(……まぁ、あの頃の俺にとって、スーツは『武装』だったからな……)

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