アンコールはリビングで
ドラマの場面が変わり、街中でのシーンへ。

仕事が早く片付き、珍しく徒歩で移動する怜司。
その完璧なスーツ姿は、雑踏の中でも異彩を放っている。

『……ったく、こんな非効率な移動手段は二度とごめんだ』

苛立ちを隠さずに歩く怜司の前方から、大量の古本を抱えた女性――栗原舞花が飛び出してくる。

『きゃっ!』

『……!』

二人は衝突し、舞花が抱えていた古本が、怜司の磨き上げられた革靴の上に雪崩を起こす。

『あ、あの……す、すみません! 大丈夫ですか!?』

慌てて謝罪し、見上げる舞花。
その顔を見た瞬間、怜司の眉間に深いシワが刻まれた。

『……君か』

怜司の声には、明確な嫌悪と、理解できないものへの苛立ちが宿っていた。
完璧な計算の世界に生じたノイズを排除しようとする、冷徹な視線。

『あ、佐伯さん……! あの時はどうも……って、すごい顔してますね……』

『……君は、いつもこうやって他人の時間を奪うのが趣味なのか?』

しどろもどろになる舞花を見下ろす怜司の腕で、スマートウォッチが振動する。
AI『アイリス』がエラーを起こす。

なぜ、この女の感情だけは読めないのか。

完璧な世界に走る亀裂――。

< 118 / 248 >

この作品をシェア

pagetop