アンコールはリビングで
3. 戦闘服の男
そして、十一月。
ガレリアプラザのリニューアルオープンを目前に控え、現場は戦場と化していた。
剥き出しの鉄骨、舞い上がる粉塵。
怒号が飛び交う現場事務所の片隅で、俺は腕を組み、冷ややかな視線で男を見下ろしていた。
「早瀬さんよぉ、エリアブランディングだか何だか知らねえが、こちとら工期でケツ叩かれてんだ。サイン計画の変更なんて、今さら呑めるわけねえだろうが!」
目の前で唾を飛ばして喚いているのは、施工会社の現場監督だ。
父親ほども歳の離れた、叩き上げの職人。その迫力に、これまでの担当者なら萎縮していただろう。
だが、俺は眉一つ動かさなかった。
現場の人間からすれば、たかが「飾り」だろう。
だが、サイン計画とは単なる案内板の設置ではない。柱を彩るラッピング、壁面のグラフィック、空間を演出するロゴデザイン――。
コンクリートの塊である建物に「メイクアップ」を施し、施設の空気感を決定づける重要な仕事だ。ここが安っぽければ、どんなに立派な建物を造っても全てが台無しになる。
だからこそ、俺は自分自身を包む「外装」にも、一切の妥協を許さなかった。
俺は粉塵の舞う中で、あえて背筋を伸ばし、ジャケットの襟を正した。
入社一年目の冬、支給されたボーナスのほとんど全額を叩いて仕立てた、ビスポークの逸品。
生地からこだわり、俺の体に合わせてミリ単位で調整されたこのスリーピーススーツは、現場には不釣り合いかもしれない。だが、これこそが俺にとっての「戦闘服」だ。
若造だと侮られないために。俺という人間を鉄壁の理論で武装するために。
そして、十一月。
ガレリアプラザのリニューアルオープンを目前に控え、現場は戦場と化していた。
剥き出しの鉄骨、舞い上がる粉塵。
怒号が飛び交う現場事務所の片隅で、俺は腕を組み、冷ややかな視線で男を見下ろしていた。
「早瀬さんよぉ、エリアブランディングだか何だか知らねえが、こちとら工期でケツ叩かれてんだ。サイン計画の変更なんて、今さら呑めるわけねえだろうが!」
目の前で唾を飛ばして喚いているのは、施工会社の現場監督だ。
父親ほども歳の離れた、叩き上げの職人。その迫力に、これまでの担当者なら萎縮していただろう。
だが、俺は眉一つ動かさなかった。
現場の人間からすれば、たかが「飾り」だろう。
だが、サイン計画とは単なる案内板の設置ではない。柱を彩るラッピング、壁面のグラフィック、空間を演出するロゴデザイン――。
コンクリートの塊である建物に「メイクアップ」を施し、施設の空気感を決定づける重要な仕事だ。ここが安っぽければ、どんなに立派な建物を造っても全てが台無しになる。
だからこそ、俺は自分自身を包む「外装」にも、一切の妥協を許さなかった。
俺は粉塵の舞う中で、あえて背筋を伸ばし、ジャケットの襟を正した。
入社一年目の冬、支給されたボーナスのほとんど全額を叩いて仕立てた、ビスポークの逸品。
生地からこだわり、俺の体に合わせてミリ単位で調整されたこのスリーピーススーツは、現場には不釣り合いかもしれない。だが、これこそが俺にとっての「戦闘服」だ。
若造だと侮られないために。俺という人間を鉄壁の理論で武装するために。