アンコールはリビングで
俺はゆっくりと、冷えた声で口を開く。

「呑めるか呑めないかの、感情の話はしていません」

喧騒が一瞬、止んだ気がした。

「これは施主であるクライアントの最終決定であり、当初の設計契約に含まれる『是正』の範疇です。工期への影響については、工程表のB-3区画、来週の予備日を充てれば吸収可能であると、先ほど算出済みですが」

手元のタブレットを突きつける。
そこには、一分の隙もない修正スケジュールが表示されていた。

職人のプライド、現場の苦労。そんなものは計算式には含まれない。今の俺に必要なのは、結果だけだ。

「……チッ。わかったよ、やりゃあいいんだろ」

監督が忌々しそうに吐き捨てる。
周囲の取り巻きたちが、息を呑んで俺を見る。

「可愛げのないガキだ」「血も涙もない」

そんな心の声が聞こえてくるようだ。

(それでいい)

踵を返し、現場を出る。
背中に突き刺さる敵意すら、今の俺には心地よかった。

嫌われれば嫌われるほど、俺は誰とも馴れ合わずに済む。

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