アンコールはリビングで
「――はい。先ほど、職長にも連絡済みで、数名の職人で対応ができるとのことです。明日の夜間作業で貼り替え可能です」
凛とした、よく通る声が聞こえた。
声の主は、柱の前で図面を広げている女性だった。
ベージュのジャケットに、動きやすそうなパンツスーツ。髪を一つに束ね、現場特有の埃っぽさを物ともせず、テキパキと指示を出している。
彼女は、今回の空間演出を担当する大手印刷会社、大亜印刷のディレクター、水沢凪さんだ。
確か俺より二つか三つ年上で、打ち合わせの段階から「話の早い人だ」という印象はあったが、まさかこの修羅場に誰よりも早く駆けつけているとは。
俺に気づくと、彼女は図面を閉じて駆け寄ってきた。
「早瀬さん、お疲れ様です。夜分に申し訳ありません。……ご覧の通り、メタメリズム(条件等色)の検証不足でした。こちらの管理ミスです。内覧会直前に、本当に申し訳ありません」
開口一番、言い訳一つせず頭を下げる彼女に、俺は慌てて首を振った。
「いえ、謝らないでください。昼間の自然光チェックでは、我々もクライアントも承認を出しています。夜間のライティングとの相性まで見抜けなかったのは、統括であるこちらの責任でもありますから」
俺の言葉は、単なる慰めではない。
事実、彼女の仕事は完璧だった。悪いのは、この複雑な照明設計を見落としていた全体計画だ。現場で怒鳴り散らしていたあの監督とは大違いだ。
凛とした、よく通る声が聞こえた。
声の主は、柱の前で図面を広げている女性だった。
ベージュのジャケットに、動きやすそうなパンツスーツ。髪を一つに束ね、現場特有の埃っぽさを物ともせず、テキパキと指示を出している。
彼女は、今回の空間演出を担当する大手印刷会社、大亜印刷のディレクター、水沢凪さんだ。
確か俺より二つか三つ年上で、打ち合わせの段階から「話の早い人だ」という印象はあったが、まさかこの修羅場に誰よりも早く駆けつけているとは。
俺に気づくと、彼女は図面を閉じて駆け寄ってきた。
「早瀬さん、お疲れ様です。夜分に申し訳ありません。……ご覧の通り、メタメリズム(条件等色)の検証不足でした。こちらの管理ミスです。内覧会直前に、本当に申し訳ありません」
開口一番、言い訳一つせず頭を下げる彼女に、俺は慌てて首を振った。
「いえ、謝らないでください。昼間の自然光チェックでは、我々もクライアントも承認を出しています。夜間のライティングとの相性まで見抜けなかったのは、統括であるこちらの責任でもありますから」
俺の言葉は、単なる慰めではない。
事実、彼女の仕事は完璧だった。悪いのは、この複雑な照明設計を見落としていた全体計画だ。現場で怒鳴り散らしていたあの監督とは大違いだ。