アンコールはリビングで
「それで……対策は?」

「はい。先ほど、クライアントに急ぎお越しいただいて、現場でカラーチップを当てて確認しました。こちらの『ウォームゴールド』のシートであれば、この照明下でも綺麗に発色します」

彼女はタブレットを取り出し、変更後のシミュレーション画像と、再発注の伝票を提示した。

「すでに工場には無理を言って、明日の夕方必着で出力シートを手配済みです。施工業者も、明日の二十時から四名押さえました。翌朝の四時には貼り替え完了予定です。……早瀬さんには、明後日の明け方、施工完了の立ち合いをお願いしてもよろしいでしょうか?」

俺は目を見張った。

俺が電話を受けて、ここに来るまでのわずか数十分。その間に、彼女は原因究明、クライアント承認、資材発注、職人の手配まで全て完了させていたのだ。

「……驚きました。私が到着する前に、そこまで終わらせていたとは」

「いえ、うちの確認不足が招いた事態ですから……。私も、変更が必要だと分かった時は心臓が止まるかと思いましたが、なんとか内覧会には間に合いそうです」

ふう、と彼女が小さく息を吐き、眉を下げて苦笑する。
その表情を見て、俺の中にあったピリピリとした警戒心が、少しだけ解けるのを感じた。

有能で、責任感があって、そして人間味がある。
この人と仕事ができてよかったと、素直にそう思った。

「水沢さんの迅速な対応に感謝します。おかげで首が繋がりました」

「とんでもないです。……あ、早瀬さん、クライアントがお呼びです」

俺は彼女に目礼し、再び「白井不動産の担当者」としての顔を作って、オーナーの待つ場所へと向かった。

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