アンコールはリビングで
3. 暴かれた中身

「あ、いや……これは……」

俺は狼狽した。
最悪だ。仕事相手に、しかもこんな深夜に、サボって歌っているところを見られた。

「変なやつだ」「不真面目だ」と思われる。築き上げてきた信頼が崩れる――。

俺が言い訳を探して口ごもっていると、彼女はハッとしたように瞬きをして、ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた。

「……お疲れ様です。これ、差し入れ。温かいうちにどうぞ」

「あ、す、すみません……」

差し出された温かい缶コーヒーを受け取る。
指先に伝わる熱が、冷え切った体に染みる。

沈黙が怖い。何か言わなければ。そう思った矢先、彼女が信じられないことを口にした。

「あの……今の、すごくいい曲ですね」

その瞳は、からかうような色ではなく、純粋な好奇心に輝いていた。

「この間、ラジオで流れてた洋楽かな……? サビの転調の仕方がすごくキャッチーで、一度聴いたら耳から離れない感じで。誰の曲ですか? 有名なバンドとか?」

俺は虚を突かれた。

彼女は、俺の「奇行」ではなく、「曲」に反応している。
しかも、ただの社交辞令じゃない。今のサビの構成を一瞬で理解して褒めている。

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