アンコールはリビングで
「……いえ」

喉が渇く。
他人に自分の曲を説明するなんて、路上ライブ以外では初めてだ。

「誰の曲でもないです。……俺の曲です。ただの、作りかけの」

恐る恐る告げると、彼女は持っていたコーヒーを落としそうになるほど驚いた顔をした。

「えっ……!? は、早瀬さんが作ったんですか? 今のを?」

「はあ、まあ……趣味で、少し」

自嘲気味に笑って誤魔化そうとした。

どうせ「すごいですね」と適当に褒めて、話題を変えるつもりだろう。
エリート社員の余芸なんて、その程度の扱いだ。

けれど、彼女は食い入るように俺を見た。

「趣味のレベルじゃないですよ! 私、これでも学生時代からライブハウスに入り浸ってる音楽マニアで……耳には自信があるんです」

彼女は少し興奮した様子で、身を乗り出した。

「今のサビの入り、メジャーコードからマイナーに落ちるところの切なさが、すごく……なんていうか、この現場の空気とリンクして、鳥肌が立ちました。私、今夜のトラブルで正直すごく凹んでたんですけど……なんだか、救われた気がします」

まっすぐな言葉だった。

お世辞でも、処世術でもない。
彼女は今、俺の「スーツ(スペック)」ではなく、「音楽(中身)」を見て、感動してくれている。

その事実に気づいた瞬間、俺の中で何かが音を立てて崩れ落ちた。

恐怖に近いほどの、震えるような歓喜。

初めてだ。俺が隠し続けてきた一番大切なものを、こんなにもあっさりと、真正面から肯定されたのは。

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