アンコールはリビングで
中学に入ってすぐのことだ。

「ね、金曜日のMステ観たー?!」

週明けの教室。休み時間になるや否や、クラスの女子たちが興奮気味に私の机の周りに集まってきた。
私ももちろん観た。なんなら録画もして、土日に3回は見返したほどだ。

「観たよーっ!! 最高だったよね!」

「だよねー! もう叫んじゃった!」

「私も! せーのっ」

「『The Vanguards』!!」
「『Platinum 7』!!」

「「「…………え?」」」

教室に、気まずい空白が流れた。

そのまま、友人たちは私の回答が聞こえなかったかのように(というか、彼女たちの中にその選択肢はハナから存在しなかったようで)、再びキャッキャと盛り上がり始めた。

「カケルくんのウインクやばかったよねー!」

「わかるー! 新衣装も最高すぎた!」

私は愛想笑いを浮かべながら、心の中でそっと溜息をつく。
確かに、アイドルの曲はキャッチーで良い。否定するつもりはない。

だけど……昨晩の「歴史的瞬間」は、間違いなく日本の地上波初出演だった、あのUKロックバンド『The Vanguards』だろう。

私は金曜の20時、家族にチャンネル権を奪われないようにテレビの前を陣取り、正座して彼らの登場を待っていたのだ。

ギターのリフが鳴った瞬間の、背筋がゾクゾクするような感覚。ブラウン管越しでも伝わる圧倒的なカリスマ性。

それを共有できる相手が、ここには一人もいない。

(……ま、いいけどね。あの凄さは私だけが知ってれば)

私は少しの優越感と、それ以上の孤独を感じながら、窓の外を眺めた。
どうやら私の耳は、同世代のチャンネルから大幅にズレてしまっているようだった。

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