アンコールはリビングで
大学時代は、さらに過酷だった。

工学部の建築学科に入学した私は、毎日が「図面」との戦いだった。
徹夜で模型を作り、ミリ単位で設計図を引き、教授の容赦ないダメ出しを食らってまた作り直す。

そんな日々のストレス発散かつエネルギー源は、やっぱり音楽だった。

バイト代のほとんどは、ライブのチケット代と遠征費、そしてCD代に消えた。
ジャズ箱からアリーナ級のライブまで、ジャンルレスに足を運ぶ中で、私の視点は少しずつ変化していった。

(……この照明、音と完全に同期してる。すごい)

(このステージセット、客席からの視線を計算し尽くしてるな……)

ただ音を浴びるだけでなく、その音を届けるための「空間」そのものに惹かれるようになった。

建築で学んでいる理論が、エンターテインメントの現場でどう活かされているか。
それが今の「空間デザイン」という仕事を選ぶ、私の「設計図(ブループリント)」の原点になった。

恋愛? もちろん、何度かチャンスはあった。

でも、課題の締め切り前には音信不通になり、バイト代が入ればデートよりライブを優先する私に、ついてこれる奇特な男性はいなかった。

「凪ってさ、一人で生きていけそうだよね」

別れ際に言われたその言葉は、勲章なのか呪いなのか、当時の私には分からなかった。

< 143 / 650 >

この作品をシェア

pagetop