アンコールはリビングで
「凪もやってみろよ! 楽しいぞ!」

「え、私? 無理だよ、球技全般ダメなんだから……」

「いいから。誰も見てねぇし。ほら!」

彼からのパス。受け取ったボールは思ったよりも重く、冷たかった。

彼の期待に満ちたキラキラした目。

(……少しくらい、かっこいいところ見せたいな)

私は彼を見様見真似で、膝を使い、両手でボールを押し出した。

エイッ!

――ドゴッ。

ボールは無情にもリングの遥か手前、ボードの角に直撃し、鈍い音を立てて私の足元へ転がってきた。
あまりに無様な軌道。自分でも驚くほどの運動音痴ぶりだ。

「ぶっ……くはははは!!!」

湊が膝に手をついて笑い転げている。

「な、なんだそれ! 今の投げ方! 猫パンチかよ! 軌道がおかしいだろ、今の!」

悪気がないのは分かっている。彼にとって、私の失敗は「愛おしいドジ」に映ったのだろう。

でも。
今週の仕事で感じていた「理想通りにいかないもどかしさ」や、自分の余裕のなさに落ち込んでいた心に、その笑い声は鋭く刺さった。

(……なんで、私はこうなんだろう)

何でもスマートにこなす彼と、必死になっても不恰好な私。
平日の疲れが残っていたせいか、そんなネガティブな思考が一気に押し寄せてきた。

「……もう、笑わないでよ」

「わりぃわりぃ、いや、マジでおもろくて……くくっ」

まだ笑っている。
その年下特有の無邪気さが、今日だけはどうしても許せなかった。

「……もういい」

「え?」

私はボールを置き、くるりと背を向けた。

「帰る」

「は? おい、待てって! 凪!?」
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