アンコールはリビングで
(……あーあ。さっきのナシ。一瞬ときめきそうだったの、返して欲しいわ)

私は心の中で苦笑した。

確かにイケメンだけど、とんだ食わせ物だ。
入社数年といったところの若造が、随分と大きく出たものだ。

けれど――。

(……でも、言ってることはその通りだ)

私は配られたばかりの彼の名刺「早瀬 湊」という文字を見つめ、気を引き締めた。

空間デザインは、建築という巨大な竜に、最後に眼を入れる作業だ。
画竜点睛を欠くことがないように努めろ、と彼は言っているのだ。

「……ふっ」

生意気な王子様だこと。
でも、仕事に対して本気なのは悪くない。

私は第一印象の悪さを飲み込みつつ、この「完璧な王子」を納得させるものを創ってやろうと、密かに闘志を燃やした。

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