アンコールはリビングで
そして、施工も大詰めとなった11月。
秋の終わりにしてはやたらと冷え込む夜に、事件は起きた。

メインスクエアの柱ラッピングにおける、照明のメタメリズム(条件等色)問題だ。

昼間のチェックでは完璧だった「シャンパンゴールド」が、夜間のライティング下では「泥のような黄土色」に見えてしまうという致命的なミス。

激怒するオーナー、焦る白井不動産の上層部。

けれど、現場に駆けつけた早瀬さんは、私たちが提案したリカバリー策を即座に理解し、感情的に怒鳴り散らすことなく、最短ルートでの解決へ協力してくれた。

(やっぱりこの人、信頼できる)

そう確信して対応を終えたのが、深夜の一時過ぎだった。

「……さっむ」

現場ディレクターをしていると日付をまたぐこともよくあるが、今夜の冷え込みは堪える。

トラブル対応は完了したが、念のため他のエリアのライティングも再チェックしておきたい。
私はかじかむ手をこすり合わせながら、休憩がてら温かい飲み物を買いに行くことにした。

「そういえば、早瀬さんもまだ残ってたな……」

彼も相当参っているはずだ。

私は煌々と光る自動販売機から、ホットの缶コーヒーを2本取り出した。
ガゴン、ガゴン、という音が静まり返ったフロアに響く。

早瀬さんは休憩にでも行っているのだろうか。

私は温かい缶を両手に持ち、ガレリアプラザの三階を歩き回った。

すると、非常階段の方から、人の声が聞こえた気がした。
誰か電話でもしているんだろうか。

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