アンコールはリビングで
「……ん? なんだよ」

視線に気づいたのか、湊がこちらを向いてニッと笑った。
その屈託のない笑顔を見ると、胸の奥がじんわりと温かくなる。

あの挫折があったから、私は働き方を変えた。
現場ディレクターから、内勤メインの空間ブランディング企画職へ。

とはいえ、異動した今の部署だって決して「腰掛け」の暇な場所じゃない。

脳みそから煙が出るような企画会議、終わらない調整業務。定時で帰れるなんて「ラッキー」な日で、基本は残業だし、繁忙期にはそれこそ目の回るような忙しさだ。相変わらず、仕事はハードだ。

でも、あの時のような「命を削るような働き方」からは卒業した。
私が倒れてしまったら、この家の「リビング」を守る人がいなくなってしまうから。

何より、この愛おしい人と、一日でも長く笑ってご飯を食べるために。

修正された私の『設計図(ブループリント)』。

それは、かつて描いていた未来とは少し違う形になったけれど、私と湊が二人で長く走り続けるための、現実的で、そして愛おしい最適解になったのだと思う。

「……ううん、なんでもない」

私が首を振ると、湊は目を細め、どこか確信めいた口調で言った。

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