アンコールはリビングで
2. 色づく世界

19時。駅前広場の特設ステージ周辺には、そこそこの人が集まっていた。

だが、その熱気は俺に向けられたものではない。

最前列を陣取っているのは、俺の後に控えている人気のインディーズバンド『Silent Blue』のファンたちだ。

最近CDデビューも果たした彼ら目当ての観客たちは、俺の出番など早く終わればいいとでも言いたげに、気もそぞろな表情でスマホを弄っている。

(……アウェーだな)

俺はステージ袖でチューニングをしながら、観客席を見渡した。

いない。
水沢さんの姿はどこにもなかった。

(なんだよ……やっぱり、社交辞令か)

胸の奥が冷たく沈んでいく。

あれだけ「行きます!」なんて熱っぽく言ってたくせに。
所詮は大人の社交辞令。仕事上の円滑なコミュニケーションの一環だったってことか。

「次、早瀬さんお願いします」

「……はい」

スタッフに促され、俺は半ばヤケクソな気持ちでステージに出た。

マイクの前に立つ。

視界には、『Silent Blue』を待つ退屈そうな顔、顔、顔。

俺の歌なんて誰も求めていない。いつものことだ。
それでも歌うしかない。

俺は息を吸い込み、ギターを構え――その時だった。

< 163 / 661 >

この作品をシェア

pagetop