アンコールはリビングで
「ありがとうございました!」

俺は深々と頭を下げ、ステージを降りた。
拍手の音は、最初よりずっと大きくなっていた。

だが、そんなことより、彼女だ。
俺はギターを片付けるふりをして、客席の方を振り返った。

しかし、彼女の姿はもうそこにはなかった。
人混みの向こうに、小さく手を振り、ぺこりと頭を下げて走り去っていく背中が見えただけだった。

(……行っちゃうのかよ)

仕事の合間を縫って来てくれたのだろうか。
本当なら、この後メシでも誘って、今日の感想を直接聞きたかったのに。

俺は高揚感の残り火と、置き去りにされた寂しさを噛み締めながら、一人機材を片付けた。

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