アンコールはリビングで
3. 恋の自覚と、名前呼びと

あれから数週間が過ぎた。

ガレリアプラザの仕事は完全に終わり、彼女と会う口実はなくなってしまった。
連絡先を聞くタイミングも逃し、俺の手元には何の手がかりもない。

(……くそっ、あの時聞いておけば)

ふとした瞬間に、彼女の笑顔や、あの夜の涙ぐんだ表情が脳裏をよぎる。

仕事に集中できないなんて、俺らしくない。

そんなある平日の夜。
久しぶりに仕事が早く片付き、俺は会社から数駅離れたいつもの公園に向かった。

ここなら誰にも邪魔されず、思い切り歌える。
たまに仕事帰りのサラリーマンや、犬の散歩中の人が足を止める程度の、静かな練習場所だ。

俺はギターケースを開け、ベンチに腰掛けて歌い始めた。
今夜は誰か聴いてくれるだろうか。はたまた一人で壁打ちか。

そう思いながら、サビのフレーズを歌い上げた時だった。

カツ、カツ、カツ、とヒールの音が近づいてくる。
早足で、でも確かな意志を持った足音。

(……まさか)

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