アンコールはリビングで
「ねえねえ、お姉さん一人?」

不意に声をかけられた。
顔を上げると、二人組の若い男性がニヤニヤしながら立っていた。チャラついた格好で、酒臭い息を吐いている。

「今から俺らとご飯どう? いい店知ってるし」

「彼氏待ち? まあいいじゃん、ちょっとだけさ」

一人が馴れ馴れしく私の腕に触れようとする。
普段の私なら、「連れがいますので」とピシャリと跳ね除けて立ち去るところだ。

けれど、一瞬足が止まった。

(……今騒ぎになって、戻ってきた湊が注目されたら……)

湊は今、メガネとマスクで変装している。
でも、もし私が何か言って揉め事になり、彼が割って入ってきたら?
その拍子にマスクが外れたり、声でバレたりしたら、休日の穏やかな時間が台無しになる。SNSに拡散されるかもしれない。

そんな最悪の想像が頭をよぎり、私は強く言い返すことができなかった。

「いえ、あの……ちょっと……」

後ずさりする私を、男たちは「押せばいける」と勘違いしたらしい。

「いいじゃん、連絡先だけでもさー」

伸びてくる手。怖い。
湊、早く戻ってきて――。

カラン、と遠くでドアベルの音がした。

「――お待たせしました」

低く、よく通る声。

その一言で、場の空気が一瞬にして凍りついた。
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