アンコールはリビングで
4. 俳優・早瀬湊の顔

カフェから出てきた湊が、両手にカップを持ったまま、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。

その顔には、完璧な「営業スマイル」が貼り付いていた。
黒縁メガネの奥の瞳は細められ、マスクの下の口角は美しく上がっていると思われる。メディアで見せる「国民的スター」そのものだ。

けれど、目は笑っていない。
レンズ越しに放たれる視線は絶対零度。

「遅くなってすみません、凪さん」

彼は私の隣に立つと、男たちの方へゆっくりと視線を向けた。
身長185センチの彼が男たちを見下ろすと、圧倒的な威圧感が生まれる。

「……で、こちらの方々は、お知り合いですか?」

丁寧な口調。穏やかな声のトーン。
なのに、全身から立ち上る「圧」が凄まじい。

『俺の女に何しとんじゃ』という無言の咆哮が、笑顔の裏からあふれ出ている。
男たちは顔を見合わせ、気まずそうに目を逸らした。

「あ、いや……なんでもないっす」

「行こうぜ」

彼らは逃げるように去っていった。
二人の背中が見えなくなるまで、湊はその場を一歩も動かなかった。

静寂が戻る。
彼から、笑顔が剥がれ落ちるように消えていく。

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