アンコールはリビングで
それからは、路上ライブ後の飲み会が恒例行事になった。
安い居酒屋で、焼き鳥をつつきながら音楽談義に花を咲かせる。

水沢さんの前でなら、無理に武装しなくていい。

「デベロッパーの早瀬」でも「氷の王子」でもなく、ただの音楽好きな男として笑えている自分に気づいた。
そう気づいてから、この感情の名前を自覚するのに時間はかからなかった。

今まで、何人と付き合っても、最後はいつも同じだった。
『会いたい』と言われるたびに、時間を奪われることに苛立ち、切り捨ててきた。

……なのに、なんだこの気持ちは。

彼女の笑顔を見るたびに、もっと話していたいと思う。
時間を奪われるどころか、俺の方から時間を捧げたいと思っている。

(……俺、完全に惚れてるな)

だが、問題があった。

彼女は俺を「有望な年下の男の子」……せいぜい「推しのインディーズミュージシャン」くらいにしか思っていないのだ。
恋愛対象としての「男」としては、全く意識されていない。

それが、過去にモテてきた俺にとって初めての屈辱であり、同時に燃え上がる燃料にもなった。

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