アンコールはリビングで
「あの……お話中、申し訳ありません」

「あ、凪さん」

「私は……ええと、彼をずっと応援しているファンなんですが……」

凪さんは俺と島崎さんを交互に見ると、意を決したように口を開いた。

「あの、あなたは……『ステラ』の島崎さんですよね? ここ最近、若手のブレイクアーティストを次々と見出しているという……」

「えっ?」

俺は驚いて凪さんを見た。

凪さんは真剣な表情で俺を見つめ返し、こくりと頷いた。
その目は「この人、まだ若いけど業界じゃ有名人だよ。本物だから信じて」と訴えている。

音楽業界の動向にも詳しい彼女が言うなら、間違いないのだろう。

「……よくご存知で。そう言っていただけると光栄です」

島崎さんは少し照れくさそうに、でも嬉しそうに目を細めた。

俺は慌てて居住まいを正した。

「失礼しました。存じ上げておらず……」

「いえ、当然です。……単刀直入に言います。あなたの歌に、可能性を感じました。少しお時間をいただけませんか?」

俺が戸惑っていると、凪さんが俺の背中をトン、と押した。

「行ってきなよ、早瀬くん。こんなチャンス、ないよ」

「でも、今日は凪さんと……」

「私は大丈夫! 今日はこれで帰るね。……頑張って!」

彼女は最高の笑顔を残し、ひらりと手を振ってその場を去っていった。

その笑顔が、俺の背中を強く、優しく押してくれていた。

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