アンコールはリビングで
「なので……このお話は、一旦持ち帰らせていただいてもよろしいでしょうか?」

俺は冷静さを保ちながら言った。

「メジャーデビューともなると、それまでの準備期間も相当忙しいでしょうし……今の仕事をどうするかも、真剣に検討しなくてはいけませんので」

安定したエリート街道を捨て、保証のない芸能界へ飛び込む。
それは、あまりにも大きなリスクだ。

失敗すれば、俺がこれまで積み上げてきた「完璧なキャリア」はすべて無に帰す。

『音楽で飯が食えると思っているのか。そんなものは道楽だ』
『結果を出せ。数字で証明しろ』

脳裏に、実家の厳格な父の声が蘇る。

白井不動産に入った時、父はようやく俺を認めたような顔をした。
ここを辞めれば、俺はまた父にとっての「出来損ない」に戻るかもしれない。

俺の迷いを見透かしたように、島崎さんは身を乗り出し、真っ直ぐに俺の目を見た。

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