アンコールはリビングで
5. 誕生日のプレゼント

それからの数日、俺は恐怖と欲求の狭間で揺れ続けた。

安定か、夢か。
父の敷いたレールを走り続けるか、道なき道を行くか。

答えが出ないまま迎えた、6月10日の夜。
奇しくも、俺の25回目の誕生日だった。

誰かに祝ってもらう予定もない。部屋で一人、缶ビールを開けようとして、手が止まった。

(……声が、聞きたい)

悩んだ時、頭に浮かぶのは一人しかいなかった。

俺はスマホを握りしめ、いつものライブ後の飲みではなく、初めて休日の夜に凪さんに電話をかけた。

プルル……プルル……。

コール音が長く感じる。

(……出てくれ、凪さん、頼む……)

『……もしもし? 早瀬くん……?』

スピーカーから聞こえた凪さんの少し眠たげな優しい声。
それだけで、張り詰めていた心がふわりと解けるのが分かった。

「夜遅くにすみません……ちょっと、話したくて」

俺は先日の島崎さんとの話を、包み隠さず彼女に打ち明けた。
デビューの話。今の仕事を辞めなければならないかもしれないリスク。そして、俺自身の迷い。

誕生日のことなんて、どうでもよかった。今、この話ができるだけでいい。

彼女は静かに俺の話を聞き終えると、小さく息を吐いた。

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