アンコールはリビングで

Demo Tape 5 - Take 2 25時の二重生活と、不器用なエール

5. バレンタインの不器用なエール

年が明けた、2月上旬。

退職に向けた引き継ぎと、デビュー直前の準備で、俺の忙しさはピークに達していた。

そんな中、スマホに一件の通知が届いた。

『早瀬くん、お疲れ様! 突然だけど……美味しいイタリアン見つけたから、一緒に息抜きに行かない?』

凪さんからの誘いだ。
しかも、彼女から誘ってくれるなんて初めてのことだった。

(……イタリアン?)

スマホのカレンダーを確認するまでもなく、俺は即答で返信した。

駆け引きだの、返信を遅らせて焦らすだの、そんな恋愛テクニックを使う余裕なんて、今の俺には1ミリも残っていない。

『空いてます! めっちゃ行きたいです!』

我ながら食い気味すぎる返信だ。まるで忠犬だ。

彼女にとっては仕事終わりの何気ない食事かもしれないが、俺にとっては歴としたデートだ。
しかも、凪さん発信の。

そこから2週間、俺は死に物狂いで働いた。

凪さんとのデート(仮)を励みに、昼は引き継ぎ、夜はスタジオ。
終電で帰りながら歌詞を修正し、土日はステラで打ち合わせ。

睡眠時間は3時間を切っていたが、心はこれまでにないほど晴れやかだった。

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