アンコールはリビングで
5. 雪解け

二人は少し歩いて、公園の静かなベンチに腰を下ろした。

手渡されたラテはまだ温かい。
湊は一口コーヒーを飲むと、バツが悪そうに私の肩に頭を預けてきた。

「……あー、ダメだわ。マジで」

「何が?」

「凪のこととなると、余裕なくなる。あいつら見た瞬間、頭ん中真っ白になって、どうにかなりそうだった」

彼の髪から、シャンプーのいい匂いがする。
彼は私の肩に顔を埋めたまま、低く呟いた。

「……俺以外の男と喋んな。マジでムカつく」

「……はいはい」

その理不尽で子供っぽい言い分が、さっきまでの怒りよりもずっと深く、私の胸を打った。

国民的スターの彼が、私のために「ただの嫉妬深い男」になってくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。

「……私も、ごめんね」

「あ?」

「さっき、拗ねちゃって。湊は悪気なかったのに」

「……おう」

「それに私、本当ならもっと強く断れたんだけど……もし騒ぎになって、湊がバレたら困るなって思ったら、なんか動けなくなっちゃって……」

私の告白に、彼は驚いたように顔を上げ、それから優しく目を細めた。
大きな手が、私の頭を乱暴に、でも愛おしそうに撫でる。

「……バカじゃねぇの、お前」

「バカって」

「そんなん、気にすんなよ。俺のことなんかより、お前の安全の方が一億倍大事だろ」

彼は真剣な眼差しで私を見つめた。
その瞳には、嘘偽りのない強い意志が宿っていた。

「もしバレても、俺が絶対守るから。だから、自分のこと一番に考えろ。……頼むから」

その言葉に、胸の奥が熱くなる。
彼はいつだって、私そのものを見てくれている。

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