アンコールはリビングで
「……うん。ありがとう」

「よし。……あ、それと」

「なに?」

「さっき、笑ってわりぃ。凪が拗ねたん、今週の疲れもあったんだろ?」

彼は私の顔を覗き込んだ。

「俺も配慮が足りなかったわ。ごめんな」

「……ううん。私こそ、ごめん」

私は小さく息を吐いた。

「平日の疲れ引きずって八つ当たりして……大人女子になったつもりだったけど、私もまだまだだわ」

「ハッ、そんな完璧じゃなくていいだろ。人間味あって」

「……それ、褒めてる?」

「……さぁな。まぁ……拗ねる凪も、……まぁ、可愛かったし」

彼はそう言うと、ふいっと顔を背けてラテを啜った。
耳が少し赤くなっているのが分かる。

「……それ、絶対嘘」

「うるせぇな。嘘じゃねぇよ」

「ふふっ」

二人で笑い合うと、白い息が重なって空に溶けていった。
冷え切っていたはずの世界が、今はどうしようもなく温かい。

「……さ、そろそろ帰っか」

「うん。夕飯何にする?」

「んー、あったけぇもんがいいな。鍋とか」

ベンチから立ち上がり、また歩き出す。

帰り道、彼は私の手を自分のコートのポケットに入れた。
中で強く握りしめられる指先。
さっきの「独占欲」の名残のようなその強さが、今は何よりも愛おしかった。

夕暮れに染まる住宅街。

長く伸びた二つの影は、一つの大きな影になって、私たちの家へと続いていた。
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