アンコールはリビングで
「……ん」

俺は自然と右手を伸ばし、親指の腹で優しく凪さんの口元を拭った。

柔らかい唇の感触。温かい吐息。

凪さんが「へ?」と固まるのが見える。
俺はそのまま、指についたチョコを自分の口へと運んだ。

「……ふっ」

舌先でチョコを舐め取り、とろけるような笑顔で彼女を見つめる。

「甘ぇ。……可愛いっすね、凪さん」

「〜〜〜っ!?」

凪さんの顔が、音を立てて真っ赤に染まるのが分かった。
フォークを持った手が震え、視線が泳ぎまくっている。

(……あー、可愛い。今すぐ食べてぇ)

俺はわざとらしく小首をかしげ、さらに追撃した。

「……どうしたんすか? 顔、赤いですよ?」

「な、なんでもないっ! 酒! お酒のせいだからっ!」

彼女が慌てて水を飲む姿を見ながら、俺は口元のチョコの余韻を噛み締めた。

作戦第一段階、成功だ。

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