アンコールはリビングで
6. ミューズへの告白

また別の金曜日。
俺たちは、少し照明を落とした落ち着いたワインバーにいた。

美味しい料理とワインで、二人ともほどほどに酔いが回っている。

「……あの、凪さん」

「ん〜?」

「実は配信の新曲、二曲目のデモできたんすけど。……一番最初に、凪さんに聴いてほしくて」

「えっ! 聴きたい!」

俺は自分のイヤホンの片方を彼女に渡した。

流れるのは、切ないピアノバラード。
歌詞には、届かない想いと、それでも溢れてしまう愛を詰め込んだ。完全に、目の前の彼女に向けた歌だ。

曲が終わると、凪さんはほうっと溜息をつき、潤んだ瞳で俺を見た。

「……すごい。すごく素敵だよ、早瀬くん……!」

彼女は音楽オタクのスイッチが入ったのか、少し早口で語り出した。

「Aメロの抑えた感じからサビで感情が爆発するところとか、歌詞の『近すぎて遠い』って表現とか……もう、胸がギュッてなったよ。これ、モデルがいるの? こんなに想われてる人がいるなんて、羨ましいなぁ……」

酔いも手伝ってか、彼女は無邪気に核心を突いてくる。

俺はグラスを置き、少し沈黙してから、彼女の目を真っ直ぐに見た。

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