アンコールはリビングで
7. 手のひらの距離

決戦の前の、最後の金曜日。
俺たちは少し落ち着いた和食の店で向かい合っていた。

凪さんが俺の手元をじっと見つめている。

「……どうしました?」

「あ、ううん。早瀬くん、お箸の持ち方すごく綺麗だなって」

「あー……家が厳しかったんで、こういうことは完璧に叩き込まれました」

俺が苦笑すると、彼女は何かを感じたようにふわりと笑った。

それから話題は音楽のことになり、やがて「手」の話になった。

「私、ピアノやってたんだけど手が小さくて大変で……ギターもコードが届かなくて諦めちゃったんだよね」

「へぇ、どれくらい小さいんですか?」

俺たちはテーブルの上で掌を合わせることになった。
触れ合う指先。体温。

彼女の手は、俺の手よりも一回り以上小さくて、白くて、華奢だった。

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