アンコールはリビングで
4. 饒舌なラブソングと、琥珀色の引力

彼はふっと笑って、私の代わりに椅子に腰を下ろした。

「実は俺も……ピアノ、弾くんですよ……ギターほどじゃないですけど」

彼は少し照れながら、長い指を鍵盤の上に置いた。

「俺は凪さんみたいに、楽譜通り上品には弾けないんすけど……歌うために弾くって感じで……コードしかわかんないんで。……適当に」

そう言うと、彼はペダルを踏み込み、鍵盤に重みを乗せた。

――ジャーン。

たった一音。
Cのコードを鳴らしただけなのに、空気が変わった。

私が弾いたようなクラシックの整った音色じゃない。もっと深く、重く、倍音を含んだような厚みのある音。

彼が小さく息を吸い込み、歌い出した瞬間。

楽器店のざわめきが、私の耳から消え失せた。

< 225 / 638 >

この作品をシェア

pagetop