アンコールはリビングで
5. 喧騒からのエスケープと、降参の合図

「え、ちょ、早瀬くん!?」

「凪さん、ごめん。走れます?」

「う、うん!」

店を出た瞬間、私たちはどちらからともなく走り出した。
駅前の雑踏を抜け、路地裏へ。

コツコツと響くヒールの、彼と私の足音。
まるで映画のワンシーンみたいだ。

少し開けた公園まで走り、ようやく私たちは足を止めた。

「……はぁ、はぁ……! びっくりした……」

「……すみません、つい、気持ちよく歌いすぎました」

息を切らせながら、彼がイタズラが見つかった子供みたいに笑う。

その笑顔が、さっきまでの色気たっぷりの歌声とギャップがありすぎて、耳元で鳴り止まない鼓動が、走ったせいなのか彼のせいなのか、もう分からなかった。

< 229 / 638 >

この作品をシェア

pagetop