アンコールはリビングで
ガシッ。

「……わっ!?」

不意に、掃除機を持つ私の手首が掴まれた。

驚いて見下ろすと、ブランケットの隙間から、ゲームを中断した湊がじっと私を見上げていた。

「……なに? 掃除中なんだけど」

「……お前、俺の周りばっか構いすぎ」

「は? 何言って……」

「掃除機ばっか見てないで、俺も見ろよ」

彼はそう言うと、掴んだ手首をぐいっと引き寄せ、私の手の甲に「ちゅっ」と音を立てて口付けた。

上目遣いの瞳と、唇の温かい感触。
不意打ちすぎる甘い攻撃に、私の思考が一瞬停止する。

「……っ、な、なに急に……!」

「ん、満足。……はい、掃除どうぞ」

彼はニヤリと悪戯っぽく笑うと、パッと手を離して再びゲーム画面に戻った。

後に残されたのは、真っ赤になった私と、虚しく響く掃除機の音だけ。
……悔しい。完全に遊ばれている。

「……もう。邪魔しないでよ」

「へいへい」

私はドキドキする心臓を落ち着かせながら、わざとらしく大きな音を立てて洗濯機の方へと向かった。

背後でくくっと喉を鳴らす笑い声が聞こえたが、無視だ。
この無防備な「ダメ人間」の正体は、やっぱり油断ならない「小悪魔」なのだ。

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