アンコールはリビングで
(……もう、ダメだ)

この1ヶ月の、彼の強引で甘いアプローチ。
深夜の電話。酔った時の色っぽい視線。挙げればきりがない。

そして、今日のこの歌。
私の「推し」への憧れが、明確な「恋心」へと変わった音が、確かに聞こえた気がした。

いや、とっくに落ちてたんだ。気づかないふりをしていただけで。
自然と、口から降参の言葉が零れ落ちる。

「……ほんと、ずるい」

「え?」

「……っ! う、ううん、なんでもない! 行こ、次!」

しまった、と顔を沸騰させながら、私は高鳴る鼓動を誤魔化すように、早足で歩き出した。
背後で、彼が慌てたように追いかけてくる気配がする。

「えっ、ちょ、凪さん!? 今なんか言いましたよね!? 俺のこと褒めましたよね!?」

「言ってない! 歌が! 歌が上手だったって言ったの!」

「いや絶対『ずるい』って言った! それって俺にときめいたってことですよね!? うわーマジか、今の録音しとけばよかった……!」

本気で悔しがる彼の声が聞こえるけれど、振り返れない。

あんな熱い歌詞を、あんな目で見つめながら歌われたら。

……勘違いしちゃうよ。

***
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