アンコールはリビングで
冷たいカクテルで喉を潤しながら、俺は今夜伝えるべき言葉を、胸の奥で静かに反芻していた。

最高の音楽と、洗練された料理。
これまでにない大人な雰囲気が、俺たちを包み込む。

音楽好きの俺たちは、料理の感想もそこそこに、自然とステージの演奏に聴き入っていた。

ふと、曲調が変わった。

軽快で、どこか愛らしいピアノの旋律。
ビル・エヴァンス・トリオの名演で知られる『Waltz for Debby』だ。

俺は自然と体を前のめりにし、周囲の話し声に紛れるように彼女に耳打ちした。

「……あ、凪さん。このピアノのフレーズ」

俺の顔が近づくと、彼女も同じように身を乗り出してくる。
触れそうな肩。耳元にかかる吐息。

「……さっき凪さんが弾いてた、ドビュッシーに似てません?」

「……! ほんとだ! ビル・エヴァンスだね。お洒落……」

彼女が嬉しそうに目を輝かせる。

俺たちが共有している「音楽」という言語が、物理的な距離をゼロに近づけていく。

このまま、彼女の思考も心も、全部俺のものにできたらいいのに。

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