アンコールはリビングで
3. 揺れるピアスと、唯一の愛

やがて、ステージにサックスと男性ボーカルが加わった。
空気が一変する。

流れ始めたのは、ジョニー・ハートマンとジョン・コルトレーンの名演でも知られる、至高のラブバラード『My One and Only Love』だ。

甘く、深く、とろけるようなサックスの音色に、深みのある男性ボーカルが絡み合う。

『The very thought of you makes my heart sing...(君を想うだけで、僕の心は歌い出す)』

『Like an April breeze on the wings of spring...(春の翼に乗った、4月のそよ風のように)』

しっとりとした歌声が、店内の空気を甘く染め上げていく。
俺はグラスを揺らしながら、静かに口を開いた。

「……ここ、憧れの場所なんすよ。いつか俺も、こういう場所で歌えるようになりたいなって」

俺の言葉に、凪さんがステージから視線を外し、俺を見た。
その瞳は、薄暗い照明の中でキラキラと輝いている。

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