アンコールはリビングで

14 スウェットの勝者

1. 画面の中のすれ違い

『……待って、佐伯さん!』

テレビの画面から、ヒロイン・栗原舞花の切実な声が響く。
『嘘つきAIと恋のバグ』第4話、終盤のハイライト。

冷たい雨が降る夜の歩道橋で、傘も差さずに立ち尽くす舞花と、冷徹なIT社長・佐伯怜司が対峙しているシーンだ。

『……なんだ。私の計算では、君がここで私を引き止める確率は3パーセント未満だったんだが』

『計算、計算って……! 私の気持ちは、AIなんかじゃ測れないって言ってるじゃないですか!』

画面の中の怜司――つまり、完璧なスーツを着こなした早瀬湊は、雨に濡れた前髪の隙間から、感情を押し殺したような鋭い視線を舞花に向けている。

『……なら、証明してみろ。君のその非合理な感情が、私にどんなメリットをもたらすのか』

『それは……っ』

舞花が言葉に詰まり、俯く。
本当は「好きだから」の一言が言えればいいのに、不器用な彼女はそれが言えない。

怜司の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ期待と、それが裏切られたような失望の色がよぎる。

『……時間の無駄だったな』

怜司は冷たく言い放つと、踵を返して冷たい雨の中へと歩き出してしまう。
残された舞花は、その背中を見つめながら、ただ服の裾を握りしめて立ち尽くすだけ。

ここで、切ないバラードのエンディングテーマが流れ始めた。

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