アンコールはリビングで
2. 人間カイロ

一通りの家事を終え、私はリビングの床にヨガマットを広げた。
「三十路の身体に冷えは天敵」をスローガンに、休日は必ずストレッチポールで背中をほぐすのが日課だ。

「よし……」

ポールの上に仰向けになり、凝り固まった肩甲骨をゴリゴリと刺激する。
痛気持ちいい感覚に、思わず声が漏れる。

と、その時だった。

「……何してんの」

いつの間にかソファから降りてきた湊が、私の上から顔を覗き込んでいた。
逆光で表情が見えないが、まとわりつくような視線を感じる。

「ストレッチ。湊もやる? 肩甲骨剥がれるよ」

「やらねぇよ。……つーか、そろそろ俺を構えよ」

「えっ?」

言うが早いか、彼はドサリと私の上に覆いかかってきた。
ポールの上で不安定な私の上に、185センチ、数十キロの体重が乗っかる。

「ぐぇっ……! 重い! 湊、重いってば!」

「うっせ。じっとしてろ」

彼は私の抵抗を無視し、私の首元に顔を埋めると、そのまま脱力した。

まるで、大きな猫が飼い主の上で暖を取るような体勢だ。
彼の体温が、服越しにじわりと伝わってくる。

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