アンコールはリビングで
「……ちょっと、これじゃストレッチできないんだけど」

「いーの。俺が今、充電切れだから」

「充電?」

「ん。……凪成分が足りねぇ」

彼は私の首筋に鼻を押し当て、すーっ、と深く息を吸い込んだ。
その吐息がくすぐったくて、私は身をよじる。

けれど、彼はその重みをどけようとはしない。

「……今週、マジで疲れた」

「うん、知ってる。頑張ったね」

「……お前もな」

ボソリと呟く声。
その震動が、胸骨を通して直接響いてくる。

重い。確かに重いけれど、不思議と不快ではない。
むしろ、この重みこそが、彼がここに「いる」という確かな証拠のようで、私の心を満たしていく。

「……湊、なんかいい匂いする」

今度は私が湊の首元に鼻を近づけ、すん、と匂いを嗅いでみる。いつもの湊の香りがして落ち着く。

「……柔軟剤の匂いだろ」

彼は照れ隠しのように私の鎖骨あたりに顔を埋め、さらに強く抱きついてきた。
服の上からなのに、肌に直接触れられたような熱を感じてドキリとする。

その無防備な甘え方が愛おしくて、私はふっと力を抜いた。

「……はいはい。分かりました」

私は諦めて、彼の広い背中にそっと腕を回した。

「充電完了まで、動かないで差し上げます」

「……おう。」

私の手の中に収まりきらない広い背中。
外では何万人もの期待を背負っているこの背中が、今は私だけに全体重を預けている。

その事実に、胸の奥がきゅっと熱くなった。
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