アンコールはリビングで
いくつかお店を見て回り、私たちはレディースのアパレルショップに入った。

「凪、これ着てみて」

「えっ、私が?」

湊が「絶対に似合うから」とハンガーラックから選び出したのは、春らしいミントグリーンのワンピースだった。

フリルやリボンといった甘すぎる要素はなく、丸みのある柔らかいシルエットが特徴的で、確かに私の好みにドンピシャだった。

促されるままに、私は試着室で着替えることになった。

数分後。

「……湊、どうかな?」

少し緊張しながらカーテンを開けると、試着室のすぐ外のソファで待っていた湊が顔を上げた。

足を組み、スマホを弄りながら所在なげに佇むその姿は、ただそれだけで一枚の絵画のように完成されている。

よく見れば、店内の女性客やスタッフたちが「ねぇ、あの人モデル?」「顔見えないけどオーラやばいんだけど……」とヒソヒソとざわめき、チラチラと視線を送っていた。

そんな周囲の視線など気にも留めず、湊の視線が、私のつま先から頭までをゆっくりと這う。

伊達メガネの奥の琥珀色の瞳が、一瞬だけ大きく見開かれたかと思うと、彼の耳の先がポッと赤く染まった。

「……似合う。つーか、可愛すぎ」

「本当? よかった……」

「……やっぱそれ、買うのやめよ。他の奴に見せたくねぇ」

「ええっ!? 自分で選んだのに!?」

思わぬ言葉に驚いて聞き返すと、湊は立ち上がり、私の耳元に顔を寄せて低く囁いた。

「だって、それ着て歩いたら絶対他の男に見られるじゃん。……俺の横歩いてる時以外、絶対着るなよ」

とんでもない独占欲を発揮して不貞腐れる湊をなだめすかし、結局そのワンピースはお買い上げとなった。

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