アンコールはリビングで
「私も今日は月曜日なのに残業神回避してきて、ほんと嬉しかったー!

世の中から残業がなくなればいいのに……」

「ほんとそれな。人類は働きすぎだわ」

私の愚痴に同調しながら、彼はホッとしたように息を吐いた。

バレてない、と思っている顔だ。
そしてまた、手元のマグカップを見つめながら、ニヤニヤと思い出し笑いをしている。

(……怪しい)

でも、その怪しさは、どこか幸せな予感を孕んでいる。
私はソファの上でずるりと彼に近づき、顔を覗き込んだ。

「……なーにニヤニヤしてんの?」

「うぉっ!?」

目の前に迫った私の顔に、彼がのけ反る。

「な、なんだよ急に! 近いって!」

「だって、なんか楽しそうなんだもん。いいことあった?」

「……別に。飯が美味かっただけだよ」

「ふーん……嘘だぁ」

私は彼の目を見つめたまま、これ以上追及する代わりに、チュッ、と音を立てて彼の唇を塞いだ。

「……ッ!?」

不意打ちのキス。

湊が目を丸くして固まる。

普段は彼からしてくることが多いけれど、たまには私から仕掛けるのも悪くない。

「……ふふ、ごちそうさまでした」

私が悪戯っぽく笑うと、彼は耳まで真っ赤にして、口元を手で覆った。

「……お前なぁ……心臓に悪いことすんなよ……」

「あら、ドラマとかではラブシーンもやるんでしょ? これくらいで動揺してどうするの」

「……仕事とこれは別だろ、バカ」

彼はぶっきらぼうに言い返しながらも、その目は嬉しそうに細められていた。

秘密の理由は分からないけれど、彼が幸せならそれでいい。

生姜焼きの香りと、甘い気配が残るリビングで、私たちの月曜日は穏やかに更けていった。
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