アンコールはリビングで
私は咄嗟に機転を利かせ、湊の右腕にガシッと両手で抱きついた。

「もー、はーくんっ♡ 早く行こ? あっちのお店も見たいのー!」

自分でも鳥肌が立つほど、普段は絶対に出さない甘ったるい猫撫で声。

早瀬から取った『はーくん』という謎のあだ名に、湊がビクッと肩を震わせ、伊達メガネの奥で目を真ん丸にして私を見下ろした。

「……は、」

「ほら、はーくんっ?行くよっ♡」

呆然とする湊の腕を強引に引っ張り、私はただの『イチャついてる周りが見えていないバカップル』を全力で演じながら、人混みを縫って早足で歩き出した。

背後から、女子高生たちが「なんだ、ただのイタいバカップルか……」「そりゃ本物がこんなとこ歩いてるわけないよね」と呆れたように囁き、興味を失ってくれた気配がした。

不意打ちの甘々で積極的な私の態度に、完全にペースを崩された湊は、反論する間もなくされるがままに私に手を引かれていた。

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