アンコールはリビングで
けれど。
時計の針が深夜の0時を回った頃、私はふと本から顔を上げ、静まり返った玄関の方に視線を向けた。

(……湊、遅いなぁ。打ち上げだし、こんなもんか)

今日は、湊が初めて主演を務めたドラマのクランクアップ日であり、その足でスタッフや共演者との打ち上げに参加している。

「……たしか、帰りは島崎さんに送ってもらうって言ってたよね」

今朝、彼が家を出る前に交わした会話を思い出す。
マネージャーの島崎さんが付いていてくれるなら安心だけれど、さすがに少し心配になってきた。

と、その時。

『ピンポーン』

静かな室内に、控えめなインターホンの音が響いた。
オートロックのエントランスではなく、直接玄関前のカメラからの呼び出し音だ。

「!」

私は小説をテーブルに置き、急いでインターホンのモニターを確認した。

画面に映っていたのは、予想通り、マネージャーの島崎さんの顔。
そしてその横で、島崎さんの肩に右手を回し、全体重を預けるようにしてぐったりと項垂れている湊の姿だった。

(えっ……あんなに潰れてるの!?)

私は急いで玄関へ向かい、ガチャリとドアを開けた。

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