アンコールはリビングで
言うが早いか、湊が少しだけ顔を上げ、私の唇にちゅっ、と少し不器用なキスを落とした。

お酒の匂いと、彼自身の甘い香りがふわりと混ざる。
色気というよりも、純粋な親愛と甘えに満ちた、まるで子供のおねだりのようなキス。

「……ふふ、凪の匂いするわ……」

「っ……もう、酔っ払い……!」

私の顔がカッと熱くなるのをよそに、湊は満足したのか、再び私の首筋に深く顔を埋めた。

「……充電、切れた。……凪、このまま寝室まで運んで……」

「無茶言わないでよ! 身長差と体重差考えて! ほら、自分で歩くの!」

深夜の玄関で、大きな甘えん坊の犬を引きずるようにして、私はなんとかリビングへの第一歩を踏み出した。

この重みこそが、彼が全力で戦ってきた証であり、そして彼が選んだ『帰るべき場所』の証なのだと、愛おしく噛み締めながら。
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