アンコールはリビングで

18 過去の亡霊と、絶対的な安全地帯

1. 雑音と、帰るべき場所

「――はい。僕にとっての『Sanctuary(聖域)』は、聴いてくれる皆さんの心の中にある、ホッとできる場所になればいいなと思っています」

3月上旬、都内テレビ局のスタジオ。

1月にリリースしたアルバム『Sanctuary』のプロモーションも兼ねて出演した音楽番組のトークコーナー。

スタイリストが用意した今どきなネイビーのセットアップに身を包み、俺はカメラに向けて完璧な「早瀬湊」の爽やかな笑顔を向けていた。

(……本当の俺の『聖域』は、凪と暮らすあの家のリビングだけだけどな)

表向きの品行方正な言葉を並べながらも、脳内には愛しい恋人の顔しか浮かんでいない。
早く収録を終わらせて帰りたい。そんな思考をひた隠しにして、俺は収録をそつなくこなした。

「お疲れ様です。本日はありがとうございました」

収録後、薄暗い廊下で関係者への挨拶を済ませていた時だった。

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