アンコールはリビングで
3. 燻るジェラシーと、大人の見栄

しかし、一度心に落ちた黒い一滴は、日を追うごとに私の胸の奥を侵食していった。

テレビ局での報告から数日。

頭では「湊を信じている」と理解していても、ふとした瞬間に嫌な想像が頭をよぎってしまう。

(……業界の話で盛り上がったり、昔の思い出話で惹かれ合ったりしたら……?)

リビングで湊がスマホを触っているだけで、もしかして、と心臓がギリッと痛む。

「……凪? なんか今日、口数少なくないか?」

ソファで隣に座っていた彼が、不思議そうに私の顔を覗き込んできた。

「え? ううん、そんなことないよ。ちょっと仕事の疲れが溜まってるだけかも」

私は反射的に目を逸らし、少しだけ彼との距離を取ってしまった。

「……そっか。無理すんなよ」

彼が伸ばしかけた手が、空中で行き場を失って下ろされる。

その手を取って「不安なの」と言えたら、どれだけ楽だろう。

でも、こんな「元カノに嫉妬する」なんていう面倒くさい感情をぶつけたくなかった。

大人の女性としての見栄と強がりが、彼との間に見えない薄い壁を作ってしまっていた。

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