アンコールはリビングで
「何これ。……うち、いつから三ツ星レストランになったんだ?」

「ふふっ、大げさ。今日はホワイトデーだし、4周年の記念日だからね。いつも本当にお疲れ様ってことで」

私が微笑むと、湊は「……っ」と短く息を呑み、足早に近づいてきて、私をエプロンごと強く腕の中に閉じ込めた。

「ちょっ、湊……! ソースの匂い付いちゃうよ?」

「……はぁ、マジで生き返る。外の空気、一生吸いたくねぇ。……凪の成分が足りなすぎた」

首筋に深く顔を埋め、深く息を吸い込む彼の体から、外の冷たい空気の匂いがした。

甘ったるい愛の言葉の代わりに、全身で「ここしか無理だ」と訴えかけてくるような、彼特有のねっとりとした執着。

私は苦笑しながら、彼の背中にそっと腕を回し、労うように優しく撫でた。

「はいはい。お疲れ様でした。……せっかくのご馳走が冷めちゃうから、手洗って早く食べよ?」

促されて渋々体を離した湊は、洗面所から戻ってくると、待ちきれない様子でダイニングの椅子に腰を下ろした。

< 293 / 650 >

この作品をシェア

pagetop